自宅の居間のソファに座り、ジャスティンは落ち着きなくラム酒の杯を重ねていた。彼の隣には、酒場から連れてきた少年が甘いバカルディに酩酊して横になっていた。彼はこの少年をどう処遇したものか、思案にくれているところだった。
二人が酒場で出逢った時、少年は深い悲しみを酒に溺れさせていた。彼は、恋人に捨てられた悲しみを繰り言のように言い立てていた。数日前より、恋人が何の連絡もなく、彼の前からいなくなってしまったと。それを彼は、奔放な恋人が自分を捨てて何処かへ去ってしまったのだと捉えていた。
彼に酒を勧め、慰めながらジャスティンは、内心に噴き出しては流れる汗を止めることができなかった。彼には、少年の恋人の特徴に心当たりが有りすぎた。少年の恋人は、頭に布を巻き、鼻や耳や臍に銀色の輪を通した、褐色の肌にしなやかな筋肉を持つ魅力的な男だという。
それはまさしく、ジャスティンが先日誘い、眠らせてから絞め殺してその肉を胃の腑に納め、その残りを今も冷蔵庫内に残されている男に他ならなかった。
酒場で少年の問わず語りに耳を傾けながら、彼の心は激しい動揺に満ちていた。彼はどうすべきなのだろう？少年をこのまま放置しておくか？恋人が失踪したとは疑わず、警察に告げるつもりもなさそうであるため、それでも構わないかもしれなかった。好きに悲しみに浸らせておけば、いつかはその傷も薄れてしまうかもしれない。
しかし、このまま何事もなく別れれば、少年がその悲しい物語を、別の誰かにも語る可能性は大きかった。そして、それに該当する人物がジャスティンのアパートに消えたことを目撃している人間の耳に入る可能性もゼロではない。我身の安全を優先するならば、少年は彼の住まいに招待されるべきだった。恋人もまた招じ入れられ、そして帰らなかった終の住居へ。
そして今、少年はジャスティンの手の内にあった。少年は恋人に捨てられた悲しみをジャスティン相手に癒すことを求めたのか、彼の誘いに二つ返事で乗ってきた。そして勧められるままに、睡眠薬入りの酒を飲み干した。それはあまりに易々と、あっけない仕事であった。
その寝姿を検分すると、少年の胸は薄く、肋骨が透けて見えるようだった。その肉はあまりに生白くか細く色が無く、食肉としてはさほど魅力的ではなかった。その針跡だらけの腕を見れば、酒のみならず薬物にまみれてもいるようであったし。
しかし彼はこの肉を食さなければならなかった。彼の中で恋人達を再会させなければならないのだ。それが彼ら二人を生と死の世界に引き裂いた者の義務であった。共に死の世界に送り出してやらなければ。
今このうちに少年の身体を割り開き解体し、食肉に変えてしまおう。ジャスティンはそう決心した。明日の朝食に、冷凍庫にまだ残っている恋人の肉と共に調理しようと。彼らは皿の上で、彼の舌の上で、食道の中で、胃の中で溶け合い、再び巡り会えるだろう。ジャスティンの身体は彼らのための教会となるのだ。
先に食され彼の細胞と化した恋人の肉が、少年を歓迎するかどうかまでは、彼の知ったことではないが。何と言っても、少年とその恋人は、行方知れずになっても心配されるよりは、捨てられたと解釈される程度の間柄でもあるのだし。
しかしきっと恐らく、件の恋人はもちろん、彼の身体となった全ての者たちは、消化された少年の肉を喜んで迎えることだろう。彼の肉が覚えている限り、彼らはずっと新たな少年の肉の来訪を待ちわびていたのだ。
新たな仲間、ジャスティンが生きている限りの伴侶となる者を。
（了）
「恋人同士が、食人鬼の身体の中で再会する」という話を書いてみたくなりまして。悪趣味は重々承知。しかし、アンドリューがジェイ肉サンドイッチ食べるのも、そんな意味が少しはあるんではないかと。アンドリューの中で、ジェイとトランの肉が再会。え、彼らは恋人同士と違う？そーすか。
人肉食とは違いますが、『彼の口はニガヨモギの味がする』もそんな感じを残す作品かも、と思っております。ハワードは、吸精鬼の中でルイスと再会することを願っているのではないかなーと。
この作品での食人鬼をジャスティンにしようかジェイにしようか迷いましたが、ジェイは他人の恋愛事情に興味ないかもと思い、何となくジャスティンに。…彼も別に情に厚いキャラとは思いませんが。彼は苦痛も少なく、眠っている間にさっさと死に追いやってくれそうなので、ジェイ（拷問大好き）より慈悲があると解釈してしまいましたが、それも妙な話か。
人肉食のロマンティック面を追究できそうなこのテーマにはまだ興味があるので、他に何か書くやもしれません。今度は別のキャラで。
2007年1月7日