フワリ、ヒラリと、白く大きな花弁が次々と籠の中に放り込まれる。ジェイは自宅の中庭で、マグノリアの花を摘んでいる真っ最中だった。すでに籠は一杯になりつつあったが、ジェイは飽きることなく手当たり次第に花をむしっていた。
意識するともなく鼻歌を歌っていて、彼は珍しく上機嫌だった。この花は、昨夜彼が招いた美しい少年のための花なのだ。白っぽい髪にその目元を隠した内気そうな少年。そんな彼も、このプレゼントをきっと喜んでくれるに違いないと、彼には確信があった。
この真っ白な汚れない花びらは、少年の漂白されたような、煌めく白髪とよく似合うことだろう。そして彼がまだ滞在している客人用のベッドに撒き散らしたなら、それはきっと美しい眺めになる。ジェイは写真家として、それを是非とも写真におさめたかった。
天使の羽のように、少年の髪に降りかかる純白の花びら。それは真っ赤に染められたシーツによく映えるに違いなかった。おあつらえ向きに、少年の背には羽をもぎ取られたかのような、大きな傷もあることだし。実際には、昨夜ジェイが大きなナイフで背後から少年の心臓を串刺しにしたことでできた、味気ない致命傷なのではあるが。
白い髪でその目を隠し、自分の血に染まったシーツに俯せに横たわり、ぐったりとして花びらの羽毛に覆われるその姿は、まるで、翼をもがれて墜落死した、哀れな天使のように見えることだろう。それは想像するだに、実に素晴らしい光景だった。
天上界を思わせる、それでいて肉感的な芳香が運んだ夢想に、ジェイは花を摘む手を止めて微笑んだ。
（了）
桜もいいけど木蓮（マグノリア）もね！という気合いで書きました。春ですから。
2007年4月12日