ナッシングはすることもなく、窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。ジラーは奥に横たわり爪をいじっているようだった。満員のヴァンの中を、何とも言えずムスッとした空気が支配しているのをナッシングは感じていた。彼らは空腹に耐えかねて、クリスチャンが止めるのも聞かずに獲物探しに出たのだ。
この小さな町での狩りは危険すぎると警告するクリスチャンから、ジラーはナッシングを引きはがすようにして連れて行った。ナッシングは、同様に空腹のはずのクリスチャンはどうするのだろうと思ったが、このヴァンの中の誰もクリスチャンの心配はしていないようだった。ナッシングが思い煩うことでもないのかもしれない。なにしろ彼はこれまでずっと一人で何とかしてきたのだから、今回だって一人で何とかできるに違いなかった。
ナッシングは自分の空腹の心配をすることにした。出来ることなら今すぐにでも通りがかった誰かを引きずりこんで喉を裂いてしまいたい。しかし、クリスチャンが言った言葉が頭の片隅に残っていた。出来うる限り慎重に、安全な獲物を選ばなくては、という忠告が。そうでなければ長生きはできないという警告が。
ヴァンの中から外を眺めていると、行く手に一人の子供が見えてきた。見すぼらしい恰好の、浮浪児か迷子か。遠目に見てもあまり魅力的な獲物とは思えなかった。少なくともレインほどには。しかし、安全面を考慮すれば上位に食い込んできそうな獲物だとナッシングには思われた。頭の中のクリスチャンが頷いたように、ナッシングには思えた。
「あの子にしようよ」
ナッシングは思わず口に出して言っていた。ジラーがかすかに目を開いてから、唇を吊り上げた。承認の証だった。
子供の前まで来ると、トウィッグが車を止めてドアを開けた。ナッシングは身を乗り出し、にっこりと微笑みかけた。
「どうしたの？町まで送って行こうか？」
少年の目に警戒と怯えた色が走るのを見逃さず、ナッシングは細い腕を掴んで引っ張り込んだ。新たに獲得した強力な力を感じながら、ナッシングは唇をなめた。彼は子供を車に引きずり込むことに成功した。そしてヴァンの扉はしまった。
（了）
ミッシングマイルでのジラー達の食事はどんなものかと想像しまして。ゴーストが思い浮かべたように、迷子や浮浪者を狩ってたのかな、と。そしてその狩りにはクリッシーは同行してない気がぼんやりとします。彼は狩りの場面を他人に見られたくない人のように勝手に思ってます。
2009年3月14日