日の沈むのが随分早くなった夕暮れ時、ジェシーはいつものように窓から外を眺めていた。何を見ているのかとクリスチャンが窓際に立つと、地上では仮装した子ども達が練り歩いていた。これからお菓子をねだりに行くところなののだろう。
「一緒に行けなくて残念だね？」
クリスチャンはジェシーの大きいお腹をに目をやりながら、からかうように言った。その冗談にジェシーは笑いも頷きもしなかった。冗談に聞こえなかったのかもしれない、とクリスチャンは思った。さすがに今はやらないだろうが、ほんの数年前まではあの行列に加わっていたかもしれない幼い彼女。それが今では、細い身体に不釣り合いなほど大きな腹を抱えて日がな一日外を眺めて暮らしている。境遇の変化を思えば、とても冗談ではすまなかった。
「別にいいのよ」
首を振り、ポツリとジェシーが口を開いた。
「…私には特別なキャンディがあるんだから」
「え？」
意味を解しかねてジェシーの口もとに耳を近づけるクリスチャンの右目に、ベッドのシーツに隠されていたジェシーの手が素早く襲いかかり、突き立てられる。その手に握られているのは銀色のスプーンで、それは見事にクリスチャンの眼球をくり抜くことに成功していた。ジェシーはシーツの上に転げ落ちたそれを拾い上げ、口の中に放り込んでしばらく舐めしゃぶり、それから呑み込んだ。白く細いい喉がわずかに上下した。
「…ひどいじゃないか」
その一部始終を無事な片眼で見、右の眼窩から血を滴らせながら、クリスチャンはようやくそれだけを溜息交じりに言った。台詞とは裏腹に、さして咎める口調ではない。実際、彼にとっては大した怪我ではなかった。再生する時の酷い痛みを除けば。その永い人生にあって、初めての経験でもなかった。
「お腹の子にあげるお菓子が欲しかったのよ」
そう言うとジェシーは、クリスチャンの上にのしかかり傷口に口づけた。その下では早くも眼窩内に薄い膜がかかり、その中が透明な液体で満たされ回復しつつあった。ジェシーは色の薄い頬から血を舐め取りながら、その非人間的な再生の過程をうっとりと眺めていた。その暗い喜びに輝く瞳を見てクリスチャンは気がついた。彼女は本物の怪物と暮らすハロウィーンをいたく気に入っているのだと。
「さあ、赤ちゃんにミルクの時間よ」
そう告げると、彼女は彼の身体の一部を体内に引きずり込んでゆっくりと動き始めた。
（了）
後書き
最近どうも「気だてのいい不死身生物が、極悪な人間に責め苛まれる」という妄想が頭から離れませんで、ハロウィーンにかこつけて、クリッシー＆ジェシーでやっちゃいました。ジェシーには是非とも怪物と暮らすハロウィーンを満喫して欲しいと思いまして。ジェシーはここまで凶悪じゃないだろうと思うも。でもジェシーが妊娠中にクリッシーの血や肉を食してたら萌えます。クリッシー＆ナッシングの疑似親子関係に萌える身としては。ジラーだけでなく、クリッシーもナッシングの身体を作ってたんだよ！（よかったのう）
2008年10月29日