ある夜、フレンチクォーターの暗い街角で連れ立って歩く二人組を、不可視の双子達が見下ろしていた。少年を連れ歩く背の高い青年の脳で繰り広げられる大量殺戮を知ってか、赤毛が笑って言った。それは少年の未来を描くように示していた。彼らにはお見通しであった。
「可哀想に、あの子は白と黒の浴室で生きたまま手足をバラバラにされるよ」
「あの子は死ぬまでの間に、ひどく苦しむだろうね」
「鼻も目もくじられて歯も一本ずつ引き抜かれて、可愛い顔が台無しだね」
「腹を裂かれてはらわたが引き抜かれる様を見るのってどんな気分だろうね？」
「さあ？でも食肉のように、大きなフックに肋骨で吊り下げられる頃には死ねると思うよ」
「それもこれもあのきれいな殺人鬼についていったばっかりに」
「腹を空かせて売春に手を染め始めたうちから欲をかいて、金持ちそうなのを狙ったばっかりにね」
「先に声をかけた、黒ずくめののっぽにしておけばよかったのに」
「それなら、苦しまずにあっという間に、血を吸われて楽に死ねたのにね」
「ああ、どのみちあの子はもう日の光は見られなかったんだね」
「可哀そうに」
「可哀そうに」
くすくす笑いながらもう一人の言葉を繰り返す。心底からそう思ってはいないようだった。
「でも、あの子の肉はあいつの身体の中で生き続けるんだよ」
「川に捨てられてワニの餌となるのと、どっちがマシなんだろうね？」
「そんなこと、わかるわけないだろう？」
「どちらにしても、あの子のためにろくな墓は用意されてないんだね」
「仕方ないよ、それが彼の運命だったんだから」
「僕たちにできるのは、せめて彼に安楽な死が訪れるのを祈ってやるぐらいだね」
「そうだね、彼に安楽な死を」
「安楽な死を」
気のない祈りを残し、双子は夜の空に消えていった。
（了）
怪物のクリスチャンに殺されるよりも、人間のジェイに殺される方がよほど苦しいという不条理を書いてみました。まーどのみち死ですが。
2009年3月21日