肉体から抜け出して次の世界で目覚めたわたしを、先に来ていたジェイが迎えてくれた。わたしたちは裸で、薄暗い地下室のようなところにいた。そこはジメジメとして不快だった。
部屋を見回すわたしに、ジェイは説明してくれた。わたしたちはこれから、地下室の扉が開くたびに連れ去られ、わたしたちがこれまで犠牲者たちにしてきたことをされるのだそうだ。わたしが来るまでの間に、すでにジェイは何回かの拷問と殺害を受けたところだった。しかし、一度死んだわたしたちはもう死ぬことはないのだ。
彼は、つい先ほどまではらわたを引きずり出され、巻き取られてきたところだと言った。
「僕がやってきた順番でいえば、次はチェーンソーで体を真っ二つにされるんだと思う」
ジェイはさりげない口調でそう言った。自分の身に加えられる仕打ちを、特に気にしている風でもなかった。わたしは縦にか横にか聞こうと思ったがやめておいた。
わたしは、これから自分を襲う運命を思った。二十三回首を掻き切られる（一度か二度、絞殺と溺殺があった気がするが記憶が曖昧だ）＋α。それは確かに自分がやってきたことではあるが、与えられる苦痛の大きさとしてはわたしの罪に相応しいとは思えなかった。わたしは、その罰を恐ろしいこととはどうしても思えなかった。なんなら、もう少し拷問を追加してもかまわない心持になった。いや、実際追加されても少々困るのだが。
しかしそれに比べ、ジェイを待ち受ける運命といったら、果てもなく、想像もつかなかった。十年にわたる、夥しい回数の拷問と殺戮の饗宴を、そのか細い一身に引き受けるのだ。それが彼が、生前に少年たちにしてきたことだとはいえ。
しかも、この罰を受ける間は死ぬことはもちろん、気を失うことすらできないのだという。意識を手放すことも許さぬ苦痛は、さしものジェイをも少しうんざりさせ、疲れさせているようだった。なんということだろう。ダンテが描いたのとは違っていたが、死すら生温いと思える地獄は存在していたのだ。
ジェイの説明を受け、わたしは思わず訊ねてしまった。
「君は…自分がやってきたことを後悔しているかい？」
わたしの質問に少し意外そうな顔をして、ジェイは首を振った。
「ううん、全然」
そして軽く微笑んだ。
わたしはわが意を得たり、という思いだった。それでこそ、わたしの運命の恋人というものだ。
わたしはジェイの首を抱き寄せ、冷たく血色の悪い唇に口づけをした。こんな地獄にあっても、ジェイの唇はうっとりするほど甘美だった。読者よ、お分かりだろう。応報の罰をもってしても、生れながらの殺人者を悔い改めさせることなど不可能なのだ。
（了）
死後のジェイ＆アンドリュー、バッドエンドバージョン。でもバカップルは死んでも治らないという。実際、地獄の罰がこんなんだったら…うーんアンドリュー（サクッと殺害）とジェイ（拷問後殺害）の苦痛度に差がありすぎて公平だか不公平だか。
でも罰を受けても、二人とも反省はしないと思います。彼らはああ生きるしかなかったんじゃないかと。
2009年5月8日