わたしと性交渉を持つことについて、ジェイの方はどう思っていたか、わたしにはわからない。多分、彼はわたしをそういった対象としてはとらえていなかったように、わたしには思える。しかし、わたしの方では何度かそうした思いを抱くこともあったのだ。なぜそれが失敗したのか、彼をただの一度しか抱くことができなかったのか、そのわけを話そうと思う。
その日の夜もわたしはそんな思いを抱きながら、ジェイに酒を勧めていた。もちろん邪まな意図があってのことだ。卑怯者と言わば言え、拒まれる恐怖を払うためなら、わたしは酒の力でも何でも借りるのにやぶさかではなかった。結果、テキーラを瓶半分も飲んだジェイはぼんやりとしていて、いつになく深く酔っているようであった。わたしより酒の強い彼を酔わせるという難事業をクリアしたかに思えたが、彼の顔面が透き通るように蒼白になったのを見て、わたしは少しやりすぎたかと思った。その通り、やりすぎだったのだ。ジェイはラブチェアに横たわっていたのがむっくりと身を起こしたかと思うと、何の前触れもなく、しかし抑えようもなく口から吐瀉物を噴射し始めた。
目の前で嘔吐されて、わたしはというとすっかりうろたえてしまったが、不思議と冷静に対処していた。すなわち、ツンとした臭いのする吐瀉物を新聞紙でふき取り、ぐったりしている彼をバスルームまで引きずりもう一度吐かせようと、便器にかがみこむ彼の、長い髪が汚れないようかきあげていた。その背をさすっていると、数度の大きなゲップの後、彼はもう一度吐き出した。無理に吐いたためか、彼の眼尻には涙がにじんでいた。涙に濡れた目を見て、わたしは不覚にも、そして場違いにも胸が高鳴るのを感じた。彼は嘔吐物とよだれでべとべとになった口を手で拭った。
二度吐いて、少し楽になったらしい彼は立ち上がると歯磨き用のコップを手にうがいを始めた。わたしは台所で水を汲んでくると、彼に冷たい水を一口飲ませた。一筋の水が唇の端からこぼれて顎に線を描いた。わたしは彼を寝室まで連れてくると、タオルでまだ力無げにしているジェイの身体を拭いた。彼の身体は冷たい汗でびっしょりだった。身体を拭いて新しいシャツに着替えさせている間に、顔色が戻り、ジェイは少し回復したようだった。それでも頬を上気させ目を潤ませて、わたしのなすがままにされているジェイはひどく無力で、たとえようもなく愛おしく、魅惑的に見えた。わたしはもう少しで彼に覆いかぶさり、無体に抱きすくめて狼藉の限りをつくすところであった。
だが彼の行動がわたしを押しとどめた。彼は弱々しくわたしの手を握ると、かすかにこう呟いたのだ。
「…ありがとう」
それはわたしの心に奇妙に強く響いた。それはあまり聞き慣れていない、深い感謝の言葉だった。動揺したわたしは手を握り返すと、彼に布団をかぶせ、自分はソファで一晩を過ごした。わたしは何をしようとしていたのだろう？私のささやかな援助に感謝している哀れな存在を、欲望のままに弄ぼうだなんて。彼はわたしの唯一の仲間なのだ！わたしは今更ながらに己がしでかそうとしていたことの愚かさを痛いほどにかみしめていた。
結局、この一件があってから、わたしは彼に酒を勧めることに及び腰になってしまった。もちろん、彼と関係を持つことに対しても同様だった。
別にそれ自体を後悔しているわけではない。わたしたちの関係が素晴らしいものであったのは間違いないのだから。だが、ジェイが嘔吐した時に、胃液と唾液まみれの口を自分のそれで覆っていたら…わたしたちの関係はもう少し違ったものになったのではないかと夢想することもあるのだった。
（了）
萌えキャラが嘔吐して弱っている姿に、果てしないエロスを感じる人非人です。ECには、イイ嘔吐が足りないと思って書きました。嘔吐を披露したのはトランぐらいか。LSではクリスチャンやナッシングにナイス嘔吐シーンがいっぱいあったのに！ジェイにもプリーズ嘔吐！！大酒のみだし、機会はありそうだと思って、妄想してみました。アンドリューの下心と絡めつつ。でも実際目の前で嘔吐されたら手出せないよなーと。…それにしても、LSのジラーの「ゲロした直後の人にディープちっす」は衝撃的だった…。
2009年4月6日