夜更けに目が覚めたわたしは、薄明かりのもとジェイの寝顔を見ていた。非の打ちどころなく整った顔。しかしもちろんわたしはその輝かしい外見のみに惹かれているのではなかった。その端整さの内に秘められた、混沌とした邪悪さに魅せられているのだ。
いや、その落差に惹かれているといった方がいいかもしれない。彫像の天使のごとき微笑みを湛えながら―誰が彼を人肉喰いの悪魔と思うだろう？―その胸襟におぞましいまでの怪物性を内蔵しているからこんなにも愛おしいのだ。美と愛の名のもとに殺戮を繰り返し、己が孤独を埋めるために生贄の肉を貪る異端の神。これ程までに優美で壮麗な悪の姿が他にあるだろうか？わたしは知らなかった。これこそ悪の最もたるものではないだろうか？わたしは眼前に具現化した悪の姿にすっかり魅せられていた。
飢えのあまり人の肉を食らったとて、それ自体は悪とは呼べまい。ただ単に必要に迫られただけのことだ。それは「人の肉だけれども」仕方なく食べたのであり、他に選択肢があればそれを選んでいたはずなのだ。だが、飢えとは没交渉に、人を食うことを許さぬ社会にあってなお「人だから」食べるとは、なんという大それた邪悪だろう？
しかも、禁忌を犯す背徳の悦びに酔いしれるでもなく、あくまで淡々とした営みのように語るからこそ、わたしには一層魅惑的に映った。そう、ジェイには、人肉を食らう己の罪深さに浸る、自己陶酔的なところなど微塵もなかった。そうあってもおかしくはないだけのことをしているにもかかわらず。もちろんそれが社会的に罪とされていることは了解していようが、彼にとっては日常を彩る華やぎの一つにすぎないのだ。
いや、彼こそが花に違いなかった。美しい少年たちの肉を土壌にして咲き誇る、甘い香りをした純白の花。罪も罰も知らない無垢なそれは、まさに悪の花と呼ぶにふさわしかった。悪意のない邪悪ほど罪深い悪があるだろうか。わたしはそっとジェイの頬を撫でた。すべすべとしてなめらかな肌。悪の権化の寝顔は穏やかそのものだった。
（了）
ジェイはアンドリューのために咲いた悪の花なのです。ジェイスキーの戯言なので聞き流してください。もちろん『悪の華』大好きです。「殉教した女」（耽美にエグイ）とか、高校生の時読んで鼻血吹きそうになりました。
「人を人だから食べる」のでなければ罪にはならないんじゃないかと思っていて、かつタブーを犯す快感に酔われても引いてしまう当方としましては、ジェイのあっさりカニバリ具合は稀有のナイスバランスなのです。ポピーZはそんなところでも神だと思う次第。
2009年4月5日