その日の夕暮れ時、十七歳のジェイは、友人となる少年を求めて街をぶらついていた。しばらく大聖堂前をふらふらしていたがこれといった獲物も見つからず、向かいにある喫茶店で休憩することにした。
ジェイが白い椅子に腰を掛けてカフェオレを飲んでいると、満席でもないのに断りなく向かいの席に座る者があった。チラリと観察してみたが、全く知らない顔をした中年の男だった。観光客だろうか？ジェイは特に気に留めなかった。目を落してコーヒーカップを机に置いたジェイの手を、男が握ってきた。汗ばんで生温かかった。不躾なこの男は身を乗り出し、ジェイの耳に触れんばかりに唇を近付けて耳障りな声で囁いた。
「一晩百ドルでどうだい？」
一瞬、ジェイは相手が何を言っているのか意味を図り損ねた。しかし、次の瞬間すぐに理解した。と同時に体がカッと熱くなり、頭に血液が昇ってくるのがわかった。それは彼には珍しい怒りの発作だった。この男は、彼を男娼だと思っているのだ！少なくとも、そう扱おうとしているのだ。この浮かれたよそ者は。
金で自由にできる存在だと思われている。それはジェイにとっては許しがたい心得違いだった。自分が少年たちをそう扱うのには慣れきっていても、自分がそう扱われるのは心外だった。しかし考えてみれば、外見的に、身なりの他に少年たちとジェイの間にどれほどの差があるのだろう？彼にはよくわからなかった。これまで自分が受け身になることなど、ついぞ考えたこともない彼には。
きっとこの男はこの地に来たばかりで、彼にまつわるおぞましい伝説など知らないに違いない。そうでなければ、このように誘ったりはしないだろう。こいつはおめでたい奴なのだ。そう考えても、この男の頭の中で自分が見せることになっているであろう媚態を思うと、気色悪さに総毛だった。男の腕に抱かれて甘い息を吐く自分の姿を否応なく想像してしまい、ジェイは気分が悪くなった。
思わずジェイは、この男を彼の家に招待しようかと考えた。男が望んだとおりの快楽と、それ以上の苦痛を存分にくれてやろうかと。しかし、それをするにも男は魅力を欠いていた。この男が苦しみ悶える姿など見たくはなかった。
ジェイはまともに相手をする気力もなく、手を振りほどくと黙って席を立った。服にこすりつけても、手にはまだ脂ぎった感触が残っている気がした。彼の背後に、値段を吊り上げる声が投げつけられたが、完全に無視して歩み去った。
ジェイの中にはまだ慰み者扱いされた苛立ちがくすぶっていた。この苛立ちを解消するには、強い酒と一人の少年が必要だった。ジェイは魂を麻痺させる液体と美しい犠牲者を求めて雑踏の中に消えた。
（了）
受扱いされて嫌がるジェイをば。ジェイは、事情を知らない人から見たら、彼が獲物としている少年たちと大差ない気がしまして。こんな一幕もあったのではないかなーと妄想。でもアンドリューと出会うまで受経験なさそうなので、ちゃんと受けさせられないのが残念なところ。
2009年3月11日