蛹となってから再び目を覚ましたわたしは、先に蝶となっていたジェイに迎えられた。あの日の酒場での出会いのように。
肉体の牢獄から解放された私たちは、ジェイの希望もあってこの地にとどまっていた。彼はこの街のすべてを見たがっていた。実際、何の心配もなく暗い酒場や路地を歩けるのは楽しいことだった。周りの目を気にせず、堂々とジェイと手をつないで歩けるのは素晴らしいことだった。
魂にとって触れ合うことがどんなに満ち足りたものであるか、読者は知っているだろうか？指と指が触れあう、それだけで何も言葉はいらなくなり、お互いの知識、経験、感情すべてが溶け合って一つになるのだ。この接触の素晴らしさの前では、肉の交わりなど気の抜けたビールのようなものだった。それはわたしが魂になって初めて学んだ事項だった。
その夜もジェイを先達に街をそぞろ歩いていたわたしたちだったが、ある家の前でジェイが立ち止まった。そこには巨大なクリスマスツリーが飾り立てられ、目にも鮮やかに、人工的な光を放っていた。ジェイは立ち止ったきり振り返ることなくわたしを待っていた。お互い、足音も気配も影もなくなったが、それでも相手の存在を「知って」いるのだ。これも魂になって初めて知った事であった。
わたしはジェイに追いつくと明滅する光をうっとりとしたように眺めている彼に並び、その肩を抱き寄せた。いささか俗っぽいとはいえ、その光はわたしをセンチメンタルな気分にさせていた。ジェイも同じらしかった。
わたしたちはしばし見つめあった。ジェイの瞳はこれまでになく澄んで、穏やかな春の海のようだった。
もう言葉は必要ないわたしたちであったが、これだけは彼に言わずにいられなかった。
「ジェイ、愛してるよ」
わたしは彼の耳元にそう囁いた。
わたしの告白に、ジェイはすべて承知しているかのように頷いた。そして口を開いた。
「僕もだよ、アンドリュー」
それは生前はその口から出ることはなかった言葉、ようやく聴くことができた彼の愛の告白だった。彼も、それだけは口に出して言わなければならなかったのだろう。生死の隔てを経てようやく交わされた愛の誓いに、わたしたちは光る大木の前でキスをした。
唇を通して彼の愛が、歓喜が流れ込んでくる。その奔流はラガービールより心地よく、ブランデーよりわたしを強烈に酔わせた。目をあけるとかすかに顔を紅潮させたジェイが、恥ずかしそうに小さく笑っていた。わたしも唇をあげて笑い返した。ああ、願わくばこの瞬間がいつまでも続かんことを！
（了）
後書き
11月に出会って死んだアンドリュー＆ジェイでクリスマスネタをやろうとすると、死後ネタしか思いつかない罠。パラレル世界でも考えた方が楽か。
死後ネタとクリスマスに乗じて、生前は「愛してる」と言えなかったジェイに愛の告白をさせてみました。もうお互い殺しあう心配もいりませんし。…なんで殺人鬼カップルが死後もラブラブハッピーなんだよ厳しい裁きにあえ、とお思いの向きもありましょうが、ここはジェイ贔屓サイトなのでそこんとこご了承ください。
2008年12月24日