いつものようにジェイの書斎で本を読み漁っていたわたしは、ひときわ分厚い、古そうな本の中から、色褪せた一枚の写真を発見した。着飾った、母らしき女性に抱かれた、幼い子供が写っている。色の薄い柔らかそうな髪に、内気そうな瞳。わたしはすぐに、そこに写っているのが幼いころのジェイだと感づいた。そう思ってみると、母らしき女性は今のジェイに似てないと言えないこともなかった。
幼いジェイはまるで愛玩用の人形のようで、決して稚児趣味ではないわたしでも、思わず腕に抱いて髪を撫でたくなる愛らしさに満ちていた。実際はどうだったのだろう？幼い彼は周りの大人たちにどのように遇されてきたのだろう。幼さ、無力さをいいことに、無遠慮な関心のもとに未熟な肢体を玩ばれてきたのだろうか？それとも、あたかも繊細な作りの高価な人形であるかのように、ガラス越しに遠巻きに眺められてきたのだろうか。どちらにせよ、愛に満たされて健全に育ったようではないことは、すでに諦めきったような写真の表情が物語っていた。
その後、ソファで眠り込んだわたしは、明らかに写真に触発されたこんな夢を見た。そこはどんよりと曇った、どこまでも続いてそうな荒れ地で、ロンドンともニューオーリンズとも判別できなかった。わたしはジェイと一緒に歩いていた。といっても今の二人ではなく、わたしは十二歳頃の悪ガキ盛りで、彼は六歳にもならないであろうほんの幼児だった。
わたしは彼の小さな手を引いて、狭い歩幅に合わせてゆっくりと歩いていた。彼の足取りはイライラするほど遅かったが、幼児とはそういったものだと思うしかなかった。彼の手は私の手にすっぽりとおさまり、怯えているかのようにかすかに汗ばんでいた。彼はときどきわたしを見上げ、目が合うと俯くのを繰り返していた。わたしたちはしばらくそうして荒れた道を歩いていた。
すると目の前に、車に轢かれたものか、乾いて内臓のない犬の死体が転がっていた。蠅が数匹飛び回り、腐臭が鼻をついた。わたしは近寄り、首を数回踏みつけ、頭を捩じ切った。その様子をジェイはぼんやりと眺めていた。わたしは犬の頭をジェイに手渡そうとした。ぬるんだ肉が滑り、ジェイは頭を落としてしまった。落ちた衝撃で、腐った肉が彼の唇にわずかに飛び散った。彼は今にも泣き出しそうな顔になった。
わたしは唇に飛んだ腐肉を指で拭ってやった。かすかに指に触れた彼の唇は、ふっくらとして柔らかかった。彼は眼を閉じてされるがままになっていた。わたしは犬の頭を拾い上げ、そばに立ててあった木の杭に刺し、固定した。虚空に向かって吠えるオブジェの完成だ。わたしがシャツの裾で手を拭っている間、ジェイは無惨なオブジェのある風景をうっとりとしたように眺めていた。わたしは抗いがたい誘惑に負け、その頬を指でつついてみた。彼は目を瞬かせてから、はにかむようににっこりと笑った。
（了）
後書き
幼ジェイは萌えッコだったと信じています。しかし33歳と27歳ではそれほど年の差を感じませんが、12歳と6歳となるとデカイですな。倍ですえ。あと、犬の頭云々はダー○ーの過去話から採用しました。
2008年12月9日