世間一般の子供にとっては、クリスマスとは胸躍る幸福な日なのだろう。だがジェイにとっては、欲しくもない高価な玩具を買い与えられる、物質的なだけの豊かさの空しさを思い知る日だった。
そして十六回目のクリスマスの夜、もはや子供ではなくなったジェイはプレゼントもなく、独り自室で手当たり次第に酒を飲んでいた。ウォッカだろうとブランデーだろうとウィスキーだろうと構わなかった。
両親はそれぞれ別の場所に出かけていた。母親はどこかの豪邸で行われるクリスマスパーティーへ、父親はおそらく愛人達の誰かの家へ。母は単に華やかな場を求めているだけだろうが、父はきっとクリスマスの晩に、息子の自分と顔を合わせたくないのだろうとジェイは思った。それも分かる気がした。ろくに喋らず、目もあわせず、酒を飲んでばかりいる息子との接し方など、ジェイにも分からなかったし、自分が父親でもそうするだろうと思った。
ジェイが若くして酒に手を出していることに感づいた両親は酒だけは豊富に取りそろえておいてくれた。子供に物さえ与えれば幸せだと決め込んでいる単純な者たち。もうそれだけでは満たされないとは想像もしないのだろう。息子の乾いた魂にいつまで知らん顔を決め込むつもりだろうか？彼にはどうでも良いことだった。
彼の本当に欲しい物―そばにいてくれる人、友達になってくれる少年―を持ってきてくれるサンタはいないのだろうか？待っても来ないなら自分で見つけるしかないだろうか？彼はコートを羽織り、覚束ない足取りで靴を突っかけて外出しようとした。そうはいっても探す当てもなかったのだが。今日は町の名物的喫茶店の、めったにない休業日であるのだし。
だから、家を出たところで若い男の声に話しかけられた時は心臓が飛び上がるほど驚いた。振り返ってみると、黒い髪を長く伸ばし、ボロボロの格好をしてギターを背負った少年がそこにいた。
「あんた、この家の人かい？悪いけど、一晩泊めてくれない？」
これは夢だろうか？ジェイは目を擦ったが夢ではなかった。寒そうにしている少年の肌は白く、長い前髪の奥の顔立ちは美しかった。きっとこれが彼へのプレゼントなのだろう。ジェイは涙がにじむのを感じた。ジェイはサンタに感謝し、喜んで少年を家に招じ入れた。久しぶりに楽しいクリスマスを過ごせそうだった。
（了）
後書き
ここから、短編小説の「致死性の友愛」に続きそうですな。
ジェイでクリスマスネタやりたかっただけなのに、なんだか薄暗い話になりました。家族や友人と楽しいクリスマス過ごしてるのが想像できないからなあ。
…せめてクリスマスにあわせてアップすればいいものを、なんでこんな↓見当違いの日にアップしてるのやら。
2008年9月26日