ジェイは犠牲者から切り取った髪をジップロックして満足げに微笑んだ。黄金・緑・紫と、マルディグラカラーに染め分けられた、不自然なまでに鮮やかな髪。また新たなコレクションができて彼は嬉しかった。
その意味では、この犠牲者は宝の山と言えた。伝説のアブサンのような緑色の目は、すでにくり抜かれて、瓶の中を胎児のように漂っていた。それは前から入っていた菫色の目玉と好対照をなしていた。ジェイは、いつか黄金色の目の持ち主と出逢えるだろうかと思った。
丹念に黒く塗られ、貪欲なハーピーのように鋭く尖らされた爪は、一枚一枚丁寧に剥いでケースに並べられていた。そのケースには他にも、銀色の爪や黄金の爪、日常生活に支障をきたすのではないかと言うほど長く伸びた爪などが入っていた。主から剥ぎ取られた、何十枚もの極彩色の爪は、今ジェイのケースの中で宝石のように煌めいていた。
そして今、ジェイは犠牲者の皮を剥ぐ作業に取りかかっていた。彼の背中には、ヴェヴェのように複雑で壮麗な紋様がびっしりと描かれていたのだ。ジェイは是非とも、それを保存しておきたかった。ジェイはナイフを背に突き立て、慎重に刃を滑らせた。
彼自身はこのような装飾を体に施したことはなかった。しかし犠牲者のそれは愉しみ、素直に美しいと感じていた。なぜ痛い思いや不自由な思いをしてまで身を飾るのかはジェイには分からなかったが、きっと自分のような者に狩られ、コレクションとなるためにするのだろうと思っていた。他人の宝物となりたいがために、人は身を加工し、飾り立てるのだと。
その想像は、彼を楽しくさせた。ならば、自分は彼らの望みを叶えてやっているのだと思えるのは嬉しいことだった。彼のお陰でこの髪も目も爪も、墓の下や河の中で朽ちてしまうことなく、美しいままに保存されるのだ。それでこそ、飾り立てた身をこれ見よがしに闊歩していたこの犠牲者も報われるというものだ。
ぼんやりとそんな考え事をしながら作業をしていて、うっかり紋様に傷をつけてしまいジェイは舌打ちした。そうでなくても、いくら拘束しているとはいえ生きたままの人間の皮を剥ぐのは容易な仕事ではなかった。この見事な刺青を保存するのは諦めなくてはならないようだ。
残念な思いで、悲鳴を上げ続ける犠牲者を眺めていたジェイは、その口の中に光る犬歯が肉食獣のように尖っているのに気がついた。おそらく、自分で削り、尖らせたものに違いない。ジェイの宝物となるために。そう思うとジェイはワクワクした。細く長く尖った白い牙は、またとない獲物であると言えた。
ジェイは吟味のすえ、道具箱からやっとこを取りだした。犠牲者の頭を固定して牙を挟み込むと、今度こそ上手くいくように、彼は祈った。
（了）
後書き
「犠牲者を殺してから取ればいいのに」と思った方手を挙げて。ハイ。
作中では髪をコレクションしていたジェイですが、人体の宝はもっと色々あるんじゃないか、と思い集めさせてみました。もっと言うと、「ＬＳのジラー（人体装飾しまくり）みたいなのがジェイに捕まったらどうなるのかな」という疑問を解消してみた話でもあります。あくまでジラーみたいなの、であってジラーではありません。
2008年9月13日