酒神の狂宴

 その夜、飲み歩いてしたたか酔ったわたしとジェイは、館に連れ込んだ浮浪者を生きたまま引き裂いた。血の気を失ってパクパクと魚のように喘ぐ顔の表情や、ピクピクとひきつれて痙攣する四肢、そして何より新鮮な血の奔流とその香りをわたし達は愉しんだ。

 ジェイは返り血を浴びて、その白い裸体はテラテラと光っていた。その姿は、素手で野獣を引き裂いたバッカスの信女を思わせた。しかしその笑顔はあくまで朗らかであどけなく、狂気や異常さを感じさせるものはなかった。

 それも当然の話だ。狂った信女たちも、その仲間から見ればいたって正気に見えたのに違いなかった。そしてわたしはといえば、彼の唯一の仲間なのだから。

 彼は死骸に屈み込んで、懸命に何かをしていた。よく見ると、彼は屍体の開かれた腹に溜まった血を、クリスタルのカップにすくおうとしているのだった。彼は血を飲むことには余り興味がないのではなかっただろうか?

 なんとかカップの底にドロリとした血を溜めると、ジェイはその中にキャビネットに常備していたウォッカを注ぎ入れた。なるほど、これぞ正真正銘のブラディ・マリーというわけだった。

 彼は即席のカクテルを一口呷ると、繊細な作りのカップをこちらに勧めてきた。わたしは血でぬめる手で滑り落とさぬよう注意しながら受け取り、口を付けた。強い酒の熱と、生臭い鉄の味がわたしの舌をピリリと刺激した。その味わいは、太古の昔に狂乱した女たちが味わった酒と血に、幾ばくかは似ているかも知れなかった。

 強い酒をわたしが飲み干す様子を嬉しそうに見守っていたジェイは、歩み寄るとひざまずき、わたしの全身にまぶされた血を丁寧に舐め取り始めた。わたしの身体は見る見るうちに、彼の舌で清められていった。何とも言えず気持ちがよかった。

 私は有頂天になった。犠牲獣の血と酒を呷りながら熱狂的な信者に傅かれているわたしは、バッカス神にでもなったようだった。私は酔いに身をまかせた。いつかは巨人の顎に噛み砕かれ、その灰の中から蘇らなければならないとしても、一向に構わなかった。
(了)

後書き

教訓:お酒はほどほどに。えー。

アンドリューとジェイはどっちの方がお酒に強いかと思いましたが、明らかにジェイだよなあ。ビール数杯でヘロヘロになるアンドリューと、ウォッカだのブランデーだの度数が高い酒をガブガブ飲んで平然としているジェイじゃ勝負にもなりませぬ。

2007年6月8日