嵐はいつも突然やって来る。ジェイはソファから立ち上がるとカーテンを閉め、豪雨と稲妻が激しく展開されている窓の外の眺めを遮断した。この街を襲ったハリケーンにより、彼は狩りに出ることができなかった。このまましばらくは蟄居を余儀なくされることだろう。
その備えというわけではなかったが、昨夜若い浮浪者を一人引き込んでおけたのは幸運だった。これでとりあえずはしのげるに違いない。少なくとも、雨が止むまでは。
ジェイは居間から寝室に移動した。そこには彼の客が身動きできずに横たわっていた。彼を縛りつける紐も鎖も何もなかった。ただ、四肢を太い釘で打ち抜かれ、ベッドに文字通り釘付けになっていただけのことだった。
拷問吏が入ってくる気配に気づいたのか、男が顔を上げた。少年と呼ぶには少々とうが立っているが、まだ若いと言っていい男だった。そして、十分に美しかった。その膝や脛を砕かれる際の苦悶は、ジェイを慰め、愉しませてくれていた。金槌の下で太い骨がぐしゃりと砕ける感触を思い出し、ジェイは微笑んだ。
「気分はどう？」
ジェイは男に声をかけた。それは友人に二日酔いの具合でも尋ねるような、さりげない口調だった。
「…なんで…こんな…」
男は質問に答えていなかったが、ジェイは気にしなかった。
「何でこんなことをするのかって？…僕にもよく分からないんだ。それが分かれば止めようもあるかもしれないんだけど。僕にもどうしようもないんだよ。君はどうしたらいいと思う？」
冗談を言っているのではなかった。それは彼の偽りのない本心だった。彼自身、自分を突き動かす凶暴な衝動に困惑しているのだ。
「…なぜ、俺がこんな目に？」男は喘鳴の中、ようやく尋ねた。
ジェイはその質問に、つまらなそうに首を振った。
「それは、運が悪かったとしか言いようがないな。君と僕がこの街で出会ったからとしか。君は、こんな雨の日でなく晴天の中を歩いていて雷に打たれたとしても、自分のせいだと思うのかい？」
答えはなかった。
「…そう、例えるなら雷が一番近いのかも知れない。もしそれが人を打ったとしても、それは打たれた人のせいじゃないし、雷にもどうしようもないことなんだ。だってそういう風にできているんだから」
「…責任はないと？」
「分からない。人を殺した責任が雷にあるとすれば、僕にもあるんだと思うよ。でも誰も雷を責めないし、時には神罰の現われと見ることすらある。とすれば、僕のやっていることも神慮の一片と言えるのかも知れないね」
相手に答えると言うよりは独り言のように呟くジェイの目が、稲光を映して異様に光った。
ジェイは男が張り付けにされているベッドに歩み寄り、傍らに腰をかけて頬を撫でて言った。
「僕に分かっているのは、君を苦しませて死なせるまで、僕の頭の中の雷は鳴り止まないということだけだ。ところで希望はあるかい？次は右と左どちらの目に釘を打ち込まれたい？」
男は返事することを拒んだ。
ジェイは分かっていたかのように、釘と金槌を手にすると返事を待たず左の目に標準を合わせた。かすかに震える釘の先端が、軽く眼球に触れている。そして金槌は振り下ろされた。雷神トールの右腕のように。
（了）
沖縄が梅雨入りしたので、雷の如く気まぐれなジェイたんのお話を。
ジェイたんは、本人にもどうにもならない殺人衝動の持ち主かと。…殺しても安全そうな相手を引き込んで、見つからないように処分できる、きわめて都合のいい衝動ですが。
2007年6月8日