深い眠りから目覚めたジャスティンは、知らない部屋で身動きができない自分に気がついた。首を巡らせると枠が見え、ベッドに縛られているようだった。彼はこの部屋に見覚えがなかった。汚さでは彼と良い勝負ではあったが。彼には、酒場で男と酒を飲んでいた時からぷっつりと記憶が無くなっていた。薬でも飲まされたのだろうか？
やがて、ドアを開けて相手がやってきた。酒場で彼に声をかけてきて、共に酒を飲んでいた相手だった。正直、魅力を感じなかったので話を打ち切りたかったのだが、相手の勧める酒を断れずにいたらこの体たらくだった。彼は内心舌打ちしたい思いだった。
この男は彼に何を求めているのだろう？自分は殺されるのだろうか？不思議と恐怖はなかった。自分がやってきたことを思えば、そして今自宅のクローゼットで腐敗している屍体を思えば、相当の応報であるように思えた。しかし、最後に見るのがこの男というのは承伏しかねるものがあった。
彼を拘束し、男は嬉しそうだった。男は彼のシャツの胸をはだけさせ、裸の胸を撫で、顔を寄せてきた。その手は生温かかった。彼は背中に鳥肌が立った。恐らく、この男は彼と愛し合いたいだけなのだろう。そして彼が自身に向けられた欲情に対して感じたものは、ただただ嫌悪、それのみであった。
男がうっとりと身を寄せている間にも、彼は必死にもがいた。すると、腕を縛っていた紐が外れた。自由になった右腕で、彼は男を殴り、ひっくり返っている間にもう片方を自由にすると、とるものもとりあえず一目散にこの部屋を出て行った。
相手の引き留める声も振り切り、階段を転げ落ちるようにして降り、慌てふためきながらもなんとか自宅へ帰還することができた。家に帰ってよく見ると、手首には痣ができていた。それはしばらく残った。それ以上に、犠牲者になりかけた経験は彼の心に残った。
それでも、彼は自分の狩りを止めなかった。いや、前よりも狩りの勢いは加速した。彼の中にはわだかまる思いがあった。あの男にとって、自分は好きにいたぶることのできる無力な獲物であった。そんな、相手に無力化され、屈服させられた怒りが、彼の中にはくすぶっていて、それを打ち払うべく彼を狩りへと追い立てるのだった。彼の支配力を確認するために、力を振るうことのできる少年を、屍体を求めて。
今もあの男は、自分の自由になる一晩の相手を探しているのだろうか？彼の知ったことではなかったが。そして、自分も同じことをしているという自覚もなかった。彼は、すぐに楽にしてやり、犠牲者にあんな恐怖を味わわせたりはしないのだから。
しかし、あれがあの男の孤独の埋め方なのだろうというのは理解できた。そして、相手の身体を自由にしたいという欲望も共感できた。方法は違うものの、彼もまた自由にできる相手を強烈に欲しているのだから。
後書き
お題はポピーＺ作品のそこかしこ、特にＨＷやＬＳ、ＥＣやＳＭＭ。
強烈な欲望と、それを満たしても癒されない空虚さも、重要なところかと思いまして。
作品はＳＭＭ。他人の欲望にさらされるジャスティン。
殺人鬼が犠牲者になりかける瞬間というのを書いてみたく。
2007年3月3日