幼い頃、ニネヴェとディランは二人だけで遊んでいた。彼らはいつもお互いに笑いあい、また同時に笑い、その様子はまるで一心同体のようであった。よく見ればディランは賑やかで雄弁であり、ニネヴェは大人しく、どちらかというと訥弁であったが、彼らにはどうでもよいことであった。彼らは、二人の間の差異をほとんど気にしていなかった。彼らはいつも一緒だった。
しかし成長し、他の子ども達とも交わるようになると、二人は自分達の違いを意識せざるを得なくなった。友人達は、ディランの陽気な話ぶりには大笑いしたが、ニネヴェの淡々としたそれには退屈そうな様子しか見せなかった。ディランが笑ってくれた話にも冷たい反応しか返ってこなかった時、ニネヴェは自分が友人達にあまり好かれていないことを知った。ディランとは違って。
ディランの周りにはいつも友人達がいた。彼にはそれだけの魅力があった。しかしディランが期待したように、ディランの友がニネヴェの友になるわけではなかった。彼が近づくと、それまでディランの周りで気安い様子だった子ども達が気詰まりそうになるのに気づき、ニネヴェはディランと一緒にいることを諦めようと思った。その日彼は、ディランに黙ったまま、初めて一人で下校した。
一人てくてくと歩く彼の心の内は、苦い認識による悲しみに満ちていた。何故自分とディランは同じでないのだろう？こんなことなら、二人の違いなど知らないでいた時の方が、よほど幸せだったのに！それにしても、何と長い道のりだろう？二人で帰っていた頃は、あっという間だった家路のはずなのだが。
途方に暮れたように立ちつくす彼に、赤い顔をしたディランが追いついてきた。息せき走ってきたようで、彼一人だけだった。ディランは、ニネヴェが彼を置いて先に帰ったことを怒っていた。ニネヴェは気が進まないながらも、自分が居ない方がディランにとって良いと考えた、自分の判断を打明けた。自分の懸念を告白することで、その可能性に気づかれてしまうことを恐れながら。
気がつくと、彼はディランに抱きしめられていた。兄弟の頭を抱いて、ディランはささやいた。これからは黙っていなくなったりしないでほしい、他の誰が何と言おうと、ニネヴェは大事な兄弟なのだから、と。ニネヴェは静かに涙を流した。悲しかったからではない、ディランの言葉がとても嬉しかったからだ。二人の違いを、その隔て知らなければ、こんな喜びも知ることはなかったに違いない。
後書き
お題はポピーＺ作品のそこかしこから。個人同士の隔てを克服しての一体化が、ポピーＺ作品の重要なテーマだと思いますが如何。
作品は『Footprints in the Water』。性格正反対な双子達。しかし、違うことで得られる喜びもあるのではないかと。
2007年3月3日