された者にとっては許し難い裏切りの後しばらく、恋人達―テオとジャックは冷戦状態にあった。
醜い諍いを幾度か経てのある夜、眠っていたジャックは自分のベッドに他の人間が侵入するのを感じた。もちろん、そんなことをするのは恋人のテオに決まっていた。喧嘩を情事でうやむやにするのが彼のお決まりのやり方であることを、付き合いの長いジャックはよく知っていた。それで何となく許してきたのは、紛れもない自分なのだから。
それでも今回だけは、こんな形でなし崩しにされたくはなかった。それほどの裏切りを相手は働いたということを分からせておかなくては。シーツの間に滑り込んだ相手が身を寄せてきても、彼は背を向けて一切無視を決め込んだ。
彼がそうしてしばし身を固くしていると、テオも諦めたのか、それ以上の接触はせずにベッドに横になった。しばらくすると、恋人の寝息がジャックの耳に入ってきた。それは少し、彼の心をほぐすような響きがあった。
もちろん、裏切られた怒りや自分に対して抱く惨めさが、これだけで消え去ったわけではなかった。しかし、その安らかな寝息に安堵を抱き、背中越しに伝わる温もりに、どうしようもなく心慰められる思いを抱いてしまう自分を、ジャックはどうしても否定しきることはできなかった。
後書き
お題はＤＢやＥＣでの、孤独ッコ同士が一緒に就寝して、お互い相手の体温に慣れなくてドギマギ、なシチュエーションから。でも作品は『Nothing of him that Doth Fade』。
喧嘩後の恋人達。外野としては、そのまま仲直りしてしまえーいな甘甘さですが、そう上手くいくかは未知数なのが彼らの難しいところ。それも愛これも愛。
2007年1月29日