ニューオーリンズにかかる月は、自分の下で行われる全ての人々の営みを、悠々と見下ろしていた。夜毎にそこかしこで繰り広げられる饗宴や酒や音楽に溢れた祝祭も、それらに縁のない者たちの寂しい休息を。
そして、それらよりも密やかに忍びやかに、しかし確かに行われた奥深い秘密の営みをも、彼女だけはしかと見つめていた。
世に厭いた若者が、墓場から盗み出した護符に生命を吸い取られた夜も。
孤独な吸血鬼が、空になった哀れな少年の骸をそっと川に沈めた晩も。
餓えた双子の誘惑者が、心弱い獲物の生命を激しく吸い尽くした夜明けも。
木々深い豪邸の中で、彼女を信奉する殺人者が若者を切り開いて捧げた夕べも。
妹になった弟を持つ女装青年が、混乱した者に無惨に殺害された宵も。
沼地の奥深くで、故郷を愛する青年が光の玉の中に消えていった夕暮れも。
この街を腕に抱き慈しむ母のように、彼女はそれら全てをただ眺めていた。
そして、それらの営みで流された血、解き放たれた命をひたすらに貪っていた。
自らの腹から産んだ子ども達を食らう、恐ろしい女神のように。
後書き
お題は、ポピーＺ作品のそこかしこから。作品もそのように。ＨＷ、ＬＳ、ＥＣ、ＬＨ、ＬＭより。
他にもニューオーリンズが舞台な作品はありますが、とりあえずこのへんで。
思えば、ニューオーリンズの夜中に色ーんなことが起きてる世界ですなあ。
ポピーＺが愛好しているという、女流詩人シルヴィア・プラスの詩の一節「月は私のお母さん」に触発されてみたりも。
2007年2月18日