あたしは、バッカスの信女なのよ。
ある暑い夜、自分の上にまたがる娘がそう呟くのを、眠気に苛まれながらもクリスチャンは耳にした。
なるほど、彼女の放埒と狂気を思えばそれも正しいように思えた。
酩酊に身をまかせ、秩序や倫理に背を向けた女。馳せ廻るのは広大な野山ではなく、暗い歓楽街ではあるが。
しかし、彼女が仕える神は、その脳内に君臨する、空想上の吸血鬼であるように思えた。より無慈悲で、世界に混乱と破壊をもたらす存在。
彼女の下にいる実物の吸血鬼は、神というよりは、狂乱した信女達に引き裂かれて血を飲まれる、哀れな犠牲獣と言った方がより近いのではないだろうか？
彼は、彼女の歯でぎざぎざにうじゃけ、治癒しつつある自身の首筋の傷を指でなぞりながら、ぼんやりと思った。
後書き
お題は『Lazarus Heart』より。ルクレース達の写真の題が、ホメロス作品から取られていることから。でも作品はＬＳ。
ＬＳ作中ではバッカス神のコインが吸血鬼の符号だったりと、バッカスと吸血鬼…何か関係がありそうでもあります。なら、それ＝吸血鬼に心酔するジェシーはバッカスの信女かなあと。しかし、クリッシーはお酒売るバーテンダーをやってるあたり、神そのものというよりは、その眷属といったおもむきがあります。バッカスの眷属…サテュロスしか思いつかず。えー。
2007年1月23日