真っ暗な夜中、闇に紛れる細長い黒ずくめの人影が、何か抱えていた物を川に沈めて立ち去った。ずぶずぶと泥の川に沈んでいくそれは、紛れもなく人間、それも美しい少年の身体であった。身体中の血を抜かれてしまったためか、それはなかなか沈もうとしなかった。
どこからか姿を現し、宙を漂う双子達が、その情景を見下ろして口々に感想を述べあった。
金髪の方は、感嘆したように口笛を吹いた。
「やあ、いつもながら鮮やかな手際だね。見事なもんだ」
彼は吸血鬼の殺害の技術の確かさ、素早さに感心しているようだった。
しかし、赤毛の方は不服があるようだった。
「それにしても、あんまりにも忙しないように見えるけど。彼のやり方は事務的もいい所だ」
彼はそう言って口を尖らせた。彼の目には、その手際はあまりに実際的で、優雅さに欠けるように映っていた。
金髪がなだめるように言葉をかけた。
「それが彼の流儀なんだよ。恐怖も苦痛もできる限り少なく、というのがね」
彼は、対面したことのない吸血鬼の心情を、よく理解しているようであった。それでも赤毛は納得しかねるようだった。
「それじゃあ、味わいも少ないだろうと思うけど？」
彼は自分達の食事、長時間かけて少しずつ生命を吸い取り、最後の一滴まで大事に味わうやり方を、何よりも好んでいた。
「そりゃ、彼は僕たちとは違うからね。命のあらがいが弱まっていく様や、引き延ばされた断末魔は彼の好むところじゃないのさ」
「ふうん。綺麗な男の子達の速やかな死と、温かいたっぷりとした血液がお好みってわけかい？」
吸血鬼の獲物の好みをつぶさに見てきた赤毛は、冷笑するように言った。金髪は否定しなかった。そして、付け加えた。
「そう。それも、暗い瞳の、餓えて迷った男の子達のがね」
不審そうに銀色の目で相手を眺めてから、赤毛は尋ねた。
「それで、君もそれを評価しているんだね？」
金髪は頷いた。
「だって、美しいじゃないか」
彼は微笑み、沈みゆく少年の骸を指し示した。その顔は死の恍惚に凍結され、平穏そのもの表情を、整った面に浮かべていた。
それは、彼ら双子の貪欲な食事、カラカラに生命も美しさも吸い尽くすやり方の残骸からは見ることのできない美しさを留めていた。たとえその美が儚く脆く、すぐに甘く腐りゆく水中花のごときものだとしても。
金髪の指摘に、不平がちな片割れも不承不承肯いた。彼もまた、美しい物なら何でも気に入るディレッタントであったから。
後書き
お題はポピーＺ作品のそこかしこから。作品はＬＳ。
双子の吸精鬼による、クリッシーの吸血行為の評価。
彼らの方はクリッシーを知っていてもおかしくないので、こんなこともあるかと思ってみました。
作中ではヴァンパイアと一緒くたにされてる彼らですが、食事方法は大違いですな。
2007年2月25日