ある日ジェイは、そういえばしばらく薬物を摂取していないことに思い当たって、我ながら驚いていた。
少年時代から常習し、その夢幻や陶酔に身を任せることを日常にしていた数々の薬品が、今や彼の中に留まらず、もはや心身に影響を与えられなくなっているようだった。それは不思議な感覚を彼に与えていた。まるで、真に夢から醒めて現実を生き始めた人間のように彼は世界を見ていた。そして実際そうなのだろう。
そしてよく思い返すと、薬をやらなくなった時期はアンドリューと出会った時期と重なることに気づき、さもありなんと納得する思いだった。彼との会話に情熱を注ぎこみ続けた日々、その頭に薬物のことなど欠片もなかった。運命が引合わせた同志と、魂を分けあう黄金の時間に比べれば、薬がもたらす幻影も酩酊も虚ろで色褪せて見えた。
もちろん、アルコールは今でも摂取しているが、渇きはさして切実ではなかった。それよりも、彼にとって水に等しいビール―アンドリューの好物なので相伴に預かって口にしていた―を共に飲みながら夜通し続く語らいの方が、余程の満足を彼に与えてくれた。
そうしてみると、今の彼は何よりもアンドリューに中毒していると言えるのかもしれなかったが、こんな魂に染み通る甘美な毒なら大歓迎だった。
後書き
お題はＤＢやＶＳなど。薬物中毒の話もやや多いポピーＺ世界。
薬物だけでなく、酒や恋愛中毒も含めると、大半の作品が含まれましょう。で、作品はＥＣ。
アンドリュー中毒なジェイ。
2007年2月6日