夜明け前に目覚めたアンは、今しがた見た夢の内容をうっとりと反芻した。ここしばらく、何度も何度も見た夢、彼女の恐ろしい夜を越えさせてきた素晴らしい夢を。
ジラーの美しい緑の瞳に見つめられ、その白くしなやかな腕に抱かれる夢を。細身ではあるが力強い腕の中にある自分は満たされ、幸福だった。もはや彼女には、そこに自分があることしか願い、探し求めることはできなかった。再び彼に抱かれ、ずっと共に夜を過ごすこと。それが彼女の願う全てだった。
あの運命的な夜に、彼の隣の位置を占めようと彼女に向かって宣言した少年がいたような気もするが、その姿は彼女の記憶の中で、暗闇で見た亡霊のようにはっきりとしなかった。彼女は少年のことを大して気にしていなかった。きっとあれは何かの間違いで、隣にあることを許したのも、愛する男の気まぐれによるものに違いない。
あんなやせっぽちな子どもに何ができるというのだろう？発育の悪いヒョウタンのような、ひねこびた子どもが。自分とジラーが分かち合った極上の快楽を思えば、自分こそがあそこにいて然るべき者なのだ。自分こそがジラーの隣を占め、彼を慰めることのできる者なのだと、彼女は信じていた。
そして、その腕の中こそが、彼女がずっと求めていた場所なのだ。不安な思いをせずに夜を過ごすことのできる安息の地、誰も―スティーブ以外の誰も与えてはくれなかった約束の場所。暗闇に見開かれた彼女の瞳は、それ以外の景色を遠望することはできなかった。
後書き
お題は、ポピーＺのそこらへんから。結構重要ワードかと思いまして。作品はＬＳ。
珍しくアン視点。ジラーにエンチャンテッド状態ですが。彼女の基本は、不安な夜を越える相手を求めずにはいられない点だと思いましたがどうか。その相手がたまたまハレンチ大明神のジラーだったのが、彼女の運の尽きといいますか何というか。可哀想に。
2007年1月29日