霊△

　ある夜、わたしはジェイに連れられ、出逢った晩に見かけた幽霊屋敷を再び訪れた。ジェイはわたしに、前回は簡潔に済ませていた伝説の説明を、懇切丁寧にしてくれた。

　わたしは彼の語りを半分聞きながら、何の奇跡も見せようとも、聞かせようともしない灰色の館を眺めていた。別に、霊的な者の出現を期待していたわけではなかったが。わたしにはそのような力はないのだから。

　もしそんな力がわたしにあれば、凄惨な姿をさらす少年の霊に満ち満ちているであろう、ジェイの家に住むなどということはとてもできはしなかった。それ以前に、頸部を切断された男の出現を恐れながら、自分のアパートに暮らすこともできなかっただろう。

　彼はどうなのだろう？この幽霊屋敷の伝説を信じ、その霊の出現を待望しながら、同時に少年達を責め苛み、いたぶり殺すことがどうして可能なのだろうか？

　わたしは尋ねてみたかったが、やめておいた。自分が殺して食した相手が、自分の肉となって共にあることを信じられる彼のことだ。きっと苦痛を訴える犠牲者の霊を目にしたところで、友情の証として彼の元に帰ってきてくれたと解釈するのが関の山だろう。

　わたしは、熱に浮かされたようにサディスティックな女主人とその奴隷の伝説を語る彼の横顔を眺めて、その無邪気さを可愛らしくも、いささか気味が悪くも感じていた。

後書き

お題はＬＳやＤＢや『Entertaining Mr.Orton』やその他。幽霊話も結構多いポピーＺ世界。でも作品はＥＣ。

幽霊など、超常の存在の出ない作品故の、幽霊不在の幽霊話をば。実際、この世界で幽霊が出たら、ジェイにはものすごいのが何重にも取り憑いてそうだなーと思い。アンドリューは比較的苦痛少なく殺してますが、ジェイは拷問付きですからのう。

でも、それをもジェイは「わーい友達☆」ってな感じに、嫌なポジティブ方向にとらえるのではないかと。…そうすると、幽霊の出る世界ならジェイは殺人を重ねずにすんだとも言えましょうか。うーん。

2007年1月26日