深い淵を遠くから、白い人影が望んでいた。これ以上近づくことはできそうもなかった。少しでも近づけば、入ってしまいそうになる衝動を抑えきれなくなるだろう。
そこは、彼の兄弟が沈んだ、まさにその水だった。彼は失われた双子の兄弟と会いたかった。何としてでも。ニネヴェが兄無しでいられないと同様に、兄もまた彼無しでいることに堪えられないのだったら？
その深みでは今も兄のディランが沈んでいるんだろうか？そして、未だ別の世界に留まっている弟を待ちわびているのだろうか？彼はこの中に入るべきではないだろうか？彼は足を踏み出しかけた。
ニネヴェは頭を振り、何とか自制して、自分もまた深い水に沈んでいく夢想を振り切った。彼は息を吐いた。まだ、急いで行く必要はないのだ。焦ってはならない。
兄弟に会う方法は、彼がそちらに行くことばかりではないのだから。彼は今、頭にある再会の方法と、それを叶える青年の姿を思い浮かべた。兄にこちらに来てもらう方法だって、必ずあるはずなのだ。
そう思ってはいても、彼は兄との再会を叶える水の眺めから、立ち去りがたいものを覚えずにはいられなかった。
後書き
お題は『Footprints in the Water』『Nothing of him that Doth Fade』より。作品も『Footprints in the Water』より。
水の中で愛する者同士が一体化、というのもポピーＺ世界の大きなファクターかと。特に『Nothing of him that Doth Fade』は、生命を育む海がイコール、死でもって二人を一つに結びつける海でもあるという、海の両義性がドカンと書かれていてスゲー話であるなあと思いました。
2007年1月23日