ファイドーは―正確には彼がファイドーと名乗るよりも前のことだったが―は、幼い頃から、近所の家々で立派な犬が飼われているのを見て育ってきた。それらの犬達はよく世話されて可愛がられ、幸せそうに彼の目には映った。
そして、テレビの中で貧しい人々、特に家もなく彷徨っている人々を見た時、なぜ彼らはよりお金持ちな人々のペットにならないのかと、ファイドーは不思議に思った。そうすれば、食べる物や住むところに困ることはなく、世話をしてもらえるというのに。なぜ、人間が他の人間のペットになってはいけないのだろう？
その疑問はいつしか、彼にある夢を抱かせるようになっていった。力ある主人に支配され可愛がられ、その忠実な愛玩動物になること。それはあまりに漠然とした、他愛もない夢ではあった。しかしその夢想は確実に彼を慰めてくれた。
それは、自由で野放図であることの寂寞さを知る彼には、途轍もなく魅力的なアイデアだった。彼は一人彷徨い孤独であることより、強力な鎖に繋がれることを欲していた。彼はより大きな物に身を任せ、庇護されたかった。
それはそのままだったら夢で終わっただろう。しかし彼は家を出て、夢に自身を近づけた。奴隷とも違う、主を喜ばせる存在になるために足を踏み出したのだ。そのための手管には自信があった。
そして、あてどなく彷徨う日々の間についに見つけたのだった。その手を舐め、足もとに踞りたい程の魅力と、酷薄なまでの支配力のオーラを持つ男を、ニューオーリンズの喫茶店で。
後書き
お題はＬＳやＥＣから。とりあえずこれも重要ポイントかなと思いまして。ＢＬの王道として。
作品はＥＣ。ファイドーがペット志願になるまでを想像してみましたがどうか。
まあ、見つけた相手は守ってくれる者ではなかったのですが。
2007年3月3日