自己発見の旅を経て、ナッシングは今や、人と怪物の堺を超えて怪物側の世界に完全に入っていた。
境界線上を彷徨っていた、どっちつかずでいた頃の不安をが嘘のように、今は怪物の世界に安住し、平穏を得ていた。今からしてみると、かつてのことが何と遠く思えることだろう。
自分が何者であるかに迷い、音楽のみに仲間を求めて自室にこもってくすぶっていたかつての自分に、遠からず自分の正体が明らかになる日が来ることを、本当の仲間ができる日が来ることを教えてやりたかった。
しかし、片方を選ぶことは片方を捨てることでもあった。人間界にほとんど未練はない彼であったが、「ロスト・ソウルズ？」の二人と友達になる可能性を思い描いていた自分に、そうはなれないという厳然たる事実を教えてやりたいとは思わなかった。
後書き
お題はポピーＺ作品のそこかしこから。男と女、生と死、大人と子ども、怪物と人…様々な境界線上をウロウロする者たちを描くのも、ポピーＺ作品の主眼と思われますので。
作品はＬＳ。境界を越えて幸せになったナッシングにも、越える前を懐かしむ思いが少しはあるんではないかと思いまして。主に「ロスト・ソウルズ？」関連で。
2007年3月3日