「死すべき運命に満足することは何でもない。しかし、肉の色の素晴らしい美しさは満足のいくものである」
そう言ったのは20世紀の芸術家、フランシス・ベーコンであった。何故彼が血糊や汚穢を描くのか説明するために。彼の所感に敬服して、私はこう仮定した。ベーコンの、肉の色への鑑賞力は彼をまさに、死すべき運命に関する目利きにしていた、と。
それは、彼があえて語ることを避けていた事項ではあるが。
私は、自分自身を死すべき運命の目利きであると考えている。私の幾百万もの同胞達は、噛みに噛むのだ。何だろうと、やってくるくず肉は全て。私は防ぎようが無く、意志のない、そして甘美な肉から力を保存した。恐怖にまみれた死骸、引き延ばされた死、苦痛に満ちた死に苦しんだ死骸、生きながら火に炙られた肉、鋼によって切り開かれた肉、腸に弾を打ち込まれた肉。
この屠殺場で私は素晴らしい夕食をとった。
死すべき運命に満足することは全てであった。肉の色は素晴らしく美しいものだった。それは様々な色をしていた。溺れた肉体のスポンジ状になった紫色、新鮮なはらわたの半透明なバラ色、腐肉の泡だった藍色。
ベーコンはこの屠殺場を描くべきだった。この肉の味わいは素晴らしかった。その多様な味は。 私達が死骸を骨に変えていく時、私達はその構造を明らかにしているだけではなく、私達はそれらの要素を成しているのだ。
他のほとんどの者たちにとっては、これは蛋白質を分解し、単純で奥深い組織を補充するものだった。私にとってそれは、カタルシスをもたらすものだった。
私はその死の質を受け取っていた。私は彼の知覚によって養われ、そして恐らく彼の魂が解放されるのを手伝ってすらいるのだ。
その結果、私は何千もの生を生きていた。私は数え切れない学術的な本や、少なからぬ書物を記憶に刻んだ。私は王朝を興し、そして破壊し、または滅ぶのを見ていた。
私は子宮の中の胎児であり、洞窟の中の行者であった。私は「自由」「愛」「永遠性」という物事の理念を消化し、そして排出した。何度も何度も。
人間は他の人間を殺す。時に楽しみのために、時に愛のために。時にただ屠殺場へ送って他の人間に喰わせるために。また、私やその親族に食べさせるために。誰もが自分は最悪の時を生きていると思っていた。しかしどれも違いはなかった。
私はある若者の少し傷ついた脳の中にうずくまっていた。それはさしたる理由無く死んだ者だった。引き延ばされ、そして敬うべき狩りの後に。光り輝く渦巻きは溶けていき、バラバラにほどけて科学的な成分に分解されていった。私は彼の精神の、根源的なスープをがつがつと貪った。
死の瞬間に彼に降りかかった恐ろしい理解は、その味を鋭くしていた。
私は彼の感情と経験の洪水に酔いしれた。私は彼の知識を総合した。私は彼の全ての生を生きた。彼の流体化した脳から過去を食した時に。私は彼の世界を転げ回った。私は彼の退屈な死を死んでいた。
いつものように、それは私に人間でなく、屠殺場の蛆虫であることの喜びを与えてくれた。
後書き
"Are you Loathsome Tonight?"収録の"In Vermis Veritas"を英検三級の英語力で訳してみました。…く○だま○しの芸を見る時の眼差しで見てやって下さい。
2008年8月22日