↑ポピー・Ｚ・ブライト作『絢爛たる屍』（原題"Exquisite Corpse"）を読んだ感想を、スレイヤー（in『ＧＧＸＸ』）のデタラメＨＡＩＫＵ風に表現してみました。
先日、書評サイトさんを歩き回って同作者の小説『ロスト・ソウルズ』（以下『ＬＳ』）の感想を読みあさってたら、2003年にこの作品が邦訳化してたことを知りました。初めて。ロスト大好き野郎としては「こりゃ読まねば！」と早速購入して読んでみました。
で、感想はというと…↑のお題の通りです。簡単に説明しますと、連続猟奇殺人鬼ゲイカップルによる愛のお話でございます。全編これ男性間同性愛・肛門性交・拷問・殺人・屍体損壊・屍体性愛・人肉食が山盛りで、そのあらゆる意味での肉々しさや血臭や腐臭やイカ臭さや糞便臭に胸焼け必至。ジャンルとしては「スプラッタパンク・ホラー」に分類されるそうですが、その分類名を今初めて知りました。
ＬＳでも女性キャラはほぼ子供生むための装置でしたが、この作品はそれ以上です。生身の女性がオールモスト登場しない、柴○亜美もビックリの男密度を誇ります。読んでいてあんまりにも女が出ないもんだから、『セイバーマリ○ネットＪ』並に女が滅んだ近未来の話だったっけと思いかけますが、舞台は90年代前半のニューオーリンズなので注意が必要です。
嗚呼ポピー・Ｚよどこまで行く。いえ、作者が一番楽しそうなんではありますが。この作品で、作者がその情動の赴くままにアクセル全開でかっ飛ばし、ＬＳで群がった多くの読者を容赦なく振り落として我が道をひた走る…そんな様が目に浮かびました。
その吐き気と悪夢の予感一杯の読後感から、食前食後と就寝前の読書は全く薦められませんが、かといって起床直後の空腹時の読書もどうかと思う、そんな作品です。通勤通学時の列車内もかなり危険が伴います。気分悪ぅなっても知りまへんえ。…いつ読めばいいのか。
当方ＬＳの、血・ドラッグ・同性愛・近親相姦…といった危険な要素も、「それに溺れずには癒せない孤独感の表現」として、その描写の生々しさや身も蓋もなさに、時に疲労感を覚えながらも読了できる程度に、エログロ耐性が備わっているものと自認しておりました。
そんな当方はこの作品を読んで、そのあまりのハードルの高さに、走り高跳びで１メートル55センチのバーをなんとか越えてホッと一息ついているところに、いきなりバーの高さを2メートル追加されたかのような衝撃を受けました。クリア絶対不可能。
残虐描写に幾度も「痛っでー！もうムリだってー！ムリムリムリィ！！」と心の中で叫び、のたうち回りながらも、ラストまで引き込まれて読み耽ってしまうあたり、作者の力量に完全降伏ですが。
主人公格の二人が出会い、恋に落ちるまでが長い（出会うのが半分以降）のでやきもきさせられますが、そこからは急転直下の怒濤の展開で、ラストの「窓からホモがー！？」で二人の新婚生活に終止符が打たれるまで展開が読めず、のめり込んで読んでしまったのもまた事実。
具体的に何がしんどかったかと言いますと、その流血っぷりもさることながら、今日のお題↑にも挙げたハードゲイ描写の数々。生々しいというか世知辛いというか。ＬＳは同性愛描写は有るものの、皆ソフトゲイだしＨＩＶもなんのそのだったので甘く見てました。
血と臓物と腐肉と前立腺とＨＩＶウィルス混じりの精液で構成されているこの作品を読んだ後にＬＳを読みますと、あの血と酒とクスリと精液とゲロまみれの作品が、なにやら物凄く耽美で夢見がちで清潔感あふれる作品に思えてくるから不思議なものです。
残酷シーンも評判通りの凄まじさで、読んでて痛いんだか指に力が入らないんだか。両方です。死体の解体シーンもかなり辛いものがありましたが、クライマックスの生体解剖や、さらに生体共食（生きている人間の目の前でその肉を食らう）シーンは……己の限界を思い知らされました。色々と。ガクリ。完膚無きまでに敗北。同時に己のイメージ力の貧困さをこれほど寿いだこともございません。わーい頭の中で映像描ききれてねぇえビクトリー！！…勝ったことになるのかは謎ですが。
また、直接グロいシーンではなくても、少年が他人の家の冷蔵庫からくすねて食べた美味しいお肉の正体が、その家の主人である殺人鬼の「あれ、この人肉よそったお皿のラップ…誰か勝手に開けた？」という述懐によって、人間の屍肉であると判明するあたりのなんともいえない衝撃など、作者の構成力に翻弄され放題。
と、そんな風にビビリまくってる当方が、それではこの作品を楽しめなかったかと言いますと…これが、物凄く楽しんでしまってるんです実は。我ながら困ったことに。おお、なんとか暴走する作者に振り落とされずにすみましたぞ。残酷描写には震えつつも、そんな残虐行為に走ってしまう登場人物達の、どうにもならない、どうしようもない愛や絶望的な孤独感はこれでもかと伝わりましたし。
どぎついエログロ描写もそれだけで終わるわけでなく、やはり、こんな陰惨な形でしか愛を表現できない孤独や哀しみが根にあるのを感じさせ、そこはＬＳにも通じるものがあると思いました。やはり同じ作者だなーと。その意味ではＬＳ好きな方にはお勧めできる作品かと。描写さえクリアできるのならば。ある書評サイトさんでこの作品を「純愛小説」と評されてましたが、それも納得です。
そしてそれに留まらず…萌え方面でもかなりエキサイト＆エンジョイしたことを白状いたします。訳者あとがきによると、世間一般では犠牲者フェロモンむんむんの美少年・トランが人気だそうです。それはそれとして、私はニューオーリンズ在住の連続猟奇殺人鬼・ジェイに萌えました。いわばジェイたん萌え〜状態。…殺人鬼に「たん」もどうかと。
ニューオーリンズを根城にする、黒をまとった長身痩躯の美少年キラー（文字通り）という点で、ＬＳのクリスチャンとキャラがかぶる気がしつつも、読んでいくうちにちゃんと彼個人に魅力を感じるように。けだるくプライド高い、血色悪いブロンド美青年萌え。カフェオレ好きだし。殺人常習でどれだけ強いのかと思ったら、酒と薬と手錠頼りで、本人はめっきり格闘面弱いのにも萌え。
特に、イギリスから来た連続猟奇殺人鬼のアンドリューに出会い、恋に落ちてからどんどん可愛くなっているように思えます。なんだこの新妻（♂）。いそいそとお料理に精出す姿も、研究の末の調理論を熱く語る姿も可愛いったら。…作るのが人肉料理で、語るのが人肉の調理法でなければ普通の料理好き新妻なんですが。
ジェイだけでなく、この二人が出会った当初の、殺人鬼カップルの新婚生活がそりゃもう楽しそうでして。ええ。お互い、今まで誰にも言えなかった性癖（あたりまえだ）や信条・哲学を打ち明けられる相手を得て、なんと生き生きとしてることよ……！会話の内容の血生臭さを除けば、その終わりのないやりとりの熱っぽさは、まるで初めて同志に巡り会えたマイナージャンル愛好のオタクの様で、微笑ましさすら感じてしまうところです。オタクとしては、ちょっと共感もしてしまったり。
しかし、これまでずっと屍体としか愛し合（？）ってなかったため、お互い、生きて呼吸している温かい身体と夜を過ごすことに安堵と不安が相半ばして就寝する、というのは…可愛いような悲しいような恐ろしいような。
この二人の出会いの、お互い相手を獲物と思って狙う→アレ？もしかして同類？な展開も面白く。刺し違えの愛ですなぁ。そして相手を手錠で拘束してるのに殺されかけるジェイたんの弱さも光ってます。
…とまだまだジェイ萌えやら語りたいのですが、長くなりそうなので、続きはまた次の機会といたします。
最後に：夜中、枕元でこの作品を読み耽り、深夜に読了。ガクガク震え「こんなん読んだ直後に眠れるかボゲェエ！！」と己にパニッシュ入れて就寝。
そして…見事にクリスチャン（ＬＳでの最愛キャラ）の生体解剖の夢を見てしまったことをなんとなくお詫びいたします。脳と心臓傷つかない限り不死＆再生能力で、ほとんど縛られたプロメテウス状態でしたが。…それも酷いな。
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2006年3月20日